歴史の中の花押

☆☆☆花押の歴史☆☆☆

a.貴族・公家の花押

花押は平安中期(1000年前後)から貴族・公家に使われはじめました。
平安時代を署名の「字体」で区分してみると次の通りとなます。

  1. 三筆(空海他)の時代、楷書・行書の署名
  2. 三跡(道風他)の時代、上代和様としての草書の署名
  3. 平安中期、署名の代わりに花押が使用されはじめる時代とともに署名の字体が変化し、「花押」に進化したものと言えます。

この時代は「実名と花押」を連記しないことが原則でした。
つまり、実名を書かず花押を書くことで「署名」としていたのです。
<藤原佐理の花押>

藤原佐理の花押

b.武家の花押

1.  鎌倉時代
武家の時代となり、武家が花押を署するケースが増大しました。
源頼朝が「頼朝+花押」と署し、以後この方法が武家の花押署記法の原則となりました。
武家の花押の特徴として、同族集団・主従集団などの構成員間に類似した形状が多いことがあげられます。
この特徴は江戸時代まで引き継がれます。

源頼朝の花押

2.  室町時代

武家の時代となり、武家が花押を署するケースが増大しました。
源頼朝が「頼朝+花押」と署し、以後この方法が武家の花押署記法の原則となりました。
武家の花押の特徴として、同族集団・主従集団などの構成員間に類似した形状が多いことがあげられます。
この特徴は江戸時代まで引き継がれます。

尊氏の花押

義満の花押

義持の花押

3.戦国後期から織豊時代

武家の時代となり、武家が花押を署するケースが増大しました。
源頼朝が「頼朝+花押」と署し、以後この方法が武家の花押署記法の原則となりました。
武家の花押の特徴として、同族集団・主従集団などの構成員間に類似した形状が多いことがあげられます。
この特徴は江戸時代まで引き継がれます。

三好政康
文字と全く離れた図形
(水鳥)に見える花押

戦国時代の特徴として花押の「偽造・盗用を防ぐ」ことに主眼をおいて作成される事例があります。
また、「偽造・盗用を防ぐ」ために花押を頻繁に変えるという事例もあります。
例えば、織田信長は花押を10回前後変えています。
「信長」の2字を左横書きして裏返しにして複雑な花押を作り、秘密保持に利用したと言われています。
正に、戦国という不信時代の「花押の使い方」といえましょう。

↓江戸時代へ続く

信長の花押

花押にまつわるエピソード 「花押が政宗の命を救う」

世は戦国時代、政宗と秀吉の物語です。
政宗は、秀吉の家臣の所領となった奥州の葛西・大崎において、人々を煽動して一揆を起こさせました。
これにより旧領地を取り返そうとしたのですが、政宗が一揆勢に送った手紙が、秀吉の重臣だった蒲生氏郷の手に入ってしまいました。
「政宗が謀反を企てているのではないか」と疑った秀吉は、政宗を呼び出します。
すると政宗は、死に装束姿になったうえで、さらに金の十字架を担いで秀吉の前に現れました。
秀吉は書状を手に、政宗に釈明を求めます。
すると政宗は書状をひと目見て、「これは偽物です」と言い切りました。
政宗が書状に記す花押は、鳥の鶺鴒の形をしています。   
「私自身が書いた書状は、鶺鴒の目の部分を針で突いています。
でも、この書状には、それがありません」と言うのです。
驚いた秀吉は、これまで政宗から届いた書状をすべて確認します。
すると、確かに目に針が通っていたのです。
これにより、政宗は疑いを解かれ、命拾いしましたとのことです。

この物語の真偽のほどはわかりませんが、政宗・秀吉がいかに「花押を重視」していたかがよくわかるエピソードだと思います。
「本人認証としての花押の重要性」、「戦国時代の花押の位置づけ」、「戦国時代の花押が複雑に作られている理由」なども分かりますね。

いや~「花押って最高」ですね

4.  江戸時代

江戸時代前期は徳川家康の花押が基本形となります。
家康の花押は「徳」を明朝体で作ったものです。
明朝体花押は天と地に横線があり、その間に色々と工夫する形の花押です。
歴代の将軍が家康の花押にならった花押を使用しています。

徳川家康の花押

徳川吉宗の花押

c.僧の花押

鎌倉時代の禅僧(宋・元から来日、または渡って帰国した)が従来になかった特異な花押を使いました。 
文字とういうよりは符号に近いもので、極端に画数が少ない、円・直線・点も組み合わせるなどの特徴があります。
道号・法諱の文字を元に花押作成する余地が少なく、寓意・抽象表現に適していると言えます。
この花押類型が南北朝時代・室町時代の禅僧に使われ、俗人には広がらなかったようです。

一休宗純の花押

d.明治以降

明治元年新政府は諸大名に花押は必ず「自筆」とするように通知しました。
一方、明治6年には人民相互の諸証書には花押を用いることを禁じ、実印をもちいること(実印なき証書は証拠にならない)という太政官布告を発しました。
しかし、内閣制度が発足してからは大臣副署や閣議書類のサイン用に花押が用いられており、閣議書類については現在も慣例が守られています。
つまり、令和の現在も花押は生きているのです。
 明治期の花押の特徴としては、伝統にとらわれず創意工夫された花押が登場したことです。

閣議決定書類(令和2年9月15日)
総理大臣は安倍晋三氏
官房長官は菅義偉氏

アルファベットの花押
菊池大麓(文部大臣)の花押

名前の一字にイニシャルを加えた花押
芳澤謙吉(外務大臣)の花押

☆☆☆花押の種類☆☆☆

江戸中期「伊勢貞丈」の「押字考」(おうじこう)という花押解説書にある「花押発展の歴史」に基づく分類方法でご説明します。

草名体(そうなたい):平安中期
藤原行成の花押
「行成」と草書で書き、二字を上下に組み合わせて作った花押

二合体(にごうたい):平安後期
源頼朝の花押
「頼」の偏「束」と「朝」の旁「月」を
組み合わせて作った花押

一字体:室町初期
足利尊氏の花押
「高」の一字をもとに作った花押

別用体:室町初期
足利義政の花押
名前にしようされていない「慈」を
もとに作った花押

明朝体:戦国時代
徳川家康の花押
「徳」をもとに天地の二線を特徴とする
明朝体で作られた花押

☆☆☆花押事例☆☆☆
☆☆☆あとがき☆☆☆

最後までお読みいただきありがとうございます。
いかがでしたか。「花押の魅力」を感じていただけましたら幸いです。
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しかし、歴史的な花押には次の特徴があり、現代人にとって「再現性=書きやすさ」がないものが多いです。
  1. 筆で書くことを前提としている
  2. 「偽造・盗用を防ぐ」などの理由で複雑に作られることが多い
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花押にはつぎのようなタイプがあります。

平安貴族の雅(みやび)
伸びやかな曲線と気品あるデザインが特徴です

戦国武将の毅(つよさ)
力強い線と勇壮なデザインが特徴です

高僧の悟(さとり)
抽象的な表現により個性的なデザインが特徴です

Suiunオリジナル 
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デザイン性と再現性
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Suiun作成花押事例
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「克介様 花押」

「京(ケイ)様 花押」

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できる限りの回答をさせていただきます。

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参考文献

「姓氏・家紋・花押」 荻野三七彦 著
「花押を読む」    佐藤進一  著